小松左京+谷甲州「日本沈没 第二部」(2006)~引き潮に乗って~
余韻を楽しんでいたら、桑島所長が水差しの麦茶をそそいでくれた。
ふたたび、あの香りが鼻腔(びこう)をくすぐった。
「自家製ですか?」
すぐに口をつけるのも不調法な気がして、篠原はたずねた。桑島所長は
微笑を浮かべていった。
「入植がはじまった当時は、みんな日本の味に飢えていたものね……。
仲良しになった女性たちと『日本食を楽しむ会』というのをつくったの。
いまから考えれば、本当に手探りの状態だったわ。とりあえず味噌(みそ)を
作るところからはじめたのだけれど、最初はうまくいかなくて……。何度も
失敗しては、口惜(くや)しい思いをした。
そうしたら誰かが、もっと簡単な麦茶からはじめようといいだしたの。でも
これが、なかなか大変でね。最初のうちは、オオムギが原料だってことも知ら
なかったのよ。お年寄りのところに足をはこんでも、製法まではご存じの方が
みつからなくて……」(*1)
急激な地殻変動によって列島が消滅。あれから二十五年を経た世界を「日本沈没 第二部」は描いています。空前のベストセラーとなった前作(*2)は映画(*3)にもなりましたね。幼かった僕は父に連れられ劇場に行き、そこの小さなスクリーンで観た記憶があります。カビ、煙草、ほこり、汗といったものが入り混じった満員の客席のすえた臭いを、鼻腔の奥にぼんやり思い返します。
潜水艦の操舵士である小野寺(藤岡弘)とその恋人の玲子(いしだあゆみ)が、大混乱の只中で生き別れになっていく。別々な貨車に押し込められて異なる方向にぐんぐん引き裂かれていく。情無用のラストシーンが切なかったですね。サウンドトラックがYoutubeにありますから、BGM代わりにかけましょうか。寒々しい荒野を先へ先へとひた走る列車が蘇えって来ます。
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