2010年2月6日土曜日

冬の海~日常のこと~







  悪天候が好きです。

  雨、風、雹(ひょう)、みぞれ、雷──そういったものに惹かれます。


  折悪しくと言うべきか、幸いなのか分かりませんが、所用で向かった日本海沿いの町には寒波が襲い掛かっておりました。路面は隙間なく白く染まり、雪を交えた横殴りの風が積もった雪をさらに巻き上げては踊り狂って視界を真白く覆ってしまう。そんな最悪の天候なのでした。


  白い闇のなかを手探るようにして車を走らせます。ハザードランプを延々と明滅させながら行き交う車両のどれもこれもが、怯え切って金切り声をあげている野ウサギみたいです。針路を見誤った大型トラックが雪だまりに鼻先を突っ込み、運転手が途方に暮れて仲間の到着を待っています。目前に迫った相手を感知出来ずに追突したされたで、地吹雪のあちらこちらで立ち往生する者も後を絶ちません。


  海に行こうと決めました。こんな日の荒れた海と向き合うのはひさしぶりです。用事を終えてから街を離れ、海岸線を目指しました。


  激しく打ち寄せた飛沫が“波の花”と呼ぶ泡となって、風の中をぶわぶわ舞っています。強風に煽られて間(ま)を置く暇なく立ち上がっていく波は“潮騒”らしき音色を奏でません。地震に似た暗い轟きがごうごうと大気を埋め尽くして胸を締め付けます。


  このような日でも海猫は果敢に空に飛び、また鳶も突風に逆らい獲物を求めて旋回を試みているのが物悲しい感じです。

















  たちまち体温を奪う風雪に耐えながら、何度か場所を替えて海と向き合いました。どんな優れた画家であれ、どれほどテクニックに秀でたカメラマンであれ、こんな海を収めることは出来っこない。自ら来て見るしかない、そんな海がありました。


  この過酷な海岸線で暮らしを営む人には馴染んだ風景ではありましょうが、僕のような山育ちには眼福の貴重な時間となりました。来て良かったと思います。




  帰路、以前ここでも取り上げた池を訪れました。表面のほとんどを雪に覆われています。氷紋が妖しく描かれていて、オディロン・ルドンの世界に取り込まれたような感じです。群れなして鴨やオオハクチョウがじっと寒波の去るのを待っているのが健気です。





  トンネルを出たところで目を疑いました、と言うか、目の錯覚だったのだけれど、木立が銀色に光って見えます。

  よくよく目を凝らせば、真横からの海風によって綺麗に半分だけが雪に染まっているのです。それが為に、あたかも銀細工の柱が鈍く光っているような表情を作っているのでした。このような土地ならではの幻想的な光景だと感心いたしました。



  ちょっと肩がこり、目も疲れました。

  今夜はぐっすり眠れそうです。

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